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マンション管理士 藤城 純一は管理組合と区分所有者を支援します。

マンション管理士 藤城 純一

間違いを責めない

間違いを責めない

80戸、築15年の管理組合の事例               

【概要と助言内容】
大規模修繕工事に関連し、当時の理事長(以下、Aさん)と業者の癒着が疑われました。
同時に、Aさんの強引な手法に反発する区分所有者が多数いました。そして、Aさんに反発する区分所有者たちによって形成された次期理事会が解明に努めたところ、それなりの関係があることはわかりましたが、不正などは見つかりませんでした。
また、強引な手法による運営を適正なものに改めた結果、管理組合はスムーズに業務を遂行できるようになりました。

しかし、自らの方法を否定されたAさんには、不満がたまり続けました。その翌年もAさんに反発するグループが理事会を形成していたことから、Aさんは、当時の理事長(以下、Bさん)に質問状の形で、問い合わせを繰り返すようになりました。

質問は、細かい点に及ぶ上、回答期日を勝手に区切られるため、Bさんを始め、理事たちは本業である会社の仕事にも支障をきたすようになりました。理事会全体が疲れ切ってしまい、「全員で辞任しよう」と言い出す理事まで現れました。 

この段階で相談を受けたので、以下のような提案をしました。 

現在の状況を詳細に文書にし、全区分所有者に知らせる。
臨時総会を開き、理事全員の信任決議を行う。
上記を実施する際、Aさんの個人に関する情報を絶対に漏らさない。
上記を実施する際、及び今後、Aさんを絶対に攻撃しない。

 
当時、理事長を務めていたBさんから

このような恥ずかしい内容を全区分所有者に知らせても良いのか?
理事の信任決議などを理事会が提案し、臨時総会で決議しても良いのか?
これほどひどいことをされているのに、なぜ、Aさんを守るような行為をしなければならないのか?

などの質問をされました。 

私の見解の趣旨は以下のとおりです。 

恥ずかしい内容も情報開示と透明性の確保のため、全区分所有者に知らせる必要がある。
また、通常、隠したくなるような情報を開示すれば、理事会の信頼性が高まるはずである。
理事の信任決議をすることは、緊急措置であるが、管理の基本は「みんなのことを みんなで考えて みんなで決めて みんなで実行する」ことである。
そして、理事に質問状が繰り返し届く現状を踏まえると、理事たちの行動に問題がないかどうかを全区分所有者に決めてもらうのが管理の基本に沿った最善策だと言える。
人間は、自分を守りたくなるため、攻撃されたり、間違いを直接指摘されたりした場合、素直に認めたり、謝ったりできる人は少ない。
また、管理組合にとって重要なのは、問題を改善することだから、個人攻撃よりも本来の目的に集中すべきである。
そして、Aさんが総会で質問を続けた場合、彼が理事会に迷惑を掛けている人間だということが周囲に知られてしまうことになるため、質問攻撃をけん制する効果が考えられる。
したがって、相手を攻撃しないことが管理組合全体にとって得策になる可能性が高い。

 
【得られた結果】

最終的にBさんたち理事会メンバーは臨時総会開催を決断しました。臨時総会当日は、いつもよりも多くの出席があり、理事会を援護する発言が続きました。

「現理事会が一生懸命にやってくれていることはよく理解している。」
「執拗な質問状によって、これほど苦しんでいることを知らずにいた。」
「適正に業務をやってくれているのだから、余計な手間を掛けさせないで欲しい。」

 
そして、当のAさんは、自分に不利な様子を感じ、攻撃的な発言をできませんでした。その後、Aさんからの質問はなくなり、管理組合の運営はスムーズになりました。 

【反省点】
現在からみれば、重要なミスをしていると感じる。現在であれば、まずは、事実の確認と整理を徹底的に実行し、その後、該当者との話し合いを経て、意見交換会を開催するだろう。
そうすれば、臨時総会という正式な場を設けることなく、課題の改善が進んだと思う。また、そのような手順を尽くすことには、町づくりに近い団体である管理組合においては、合意形成をスムーズに行えるため、新たなトラブルのリスクをより軽減することができただろう。 

 
大規模マンション(500戸以上、築3年)の区分所有者の事例  

【概要と助言内容】
管理組合ではなく、区分所有者個人(以下、Sさん)から相談を受けました。
大筋の内容は、「理事会が勝手なことをやっている。手順を踏んでおらず、検証も不足している。現在も修繕積立金を取り崩して、不要な設備を設置しようとしている。絶対に総会で決議させたくない。」というものでした。
詳しく聞いてみると、理事会は不慣れなメンバーで構成されており、それなりに真剣に取り組んでいるが、管理の基本を理解していないため、周囲から見ると、危険性を感じる運営が続いているらしい、ということが見えてきました。 

この段階での私の提案は、 

・選択肢1
理事長や理事会の不手際を責めず、適正な運営に戻せるよう、Sさん自身が参加し、正しい手順や方法をやってみせ、結果を出す。
・選択肢2
このまま見守り、問題が誰の目にも明らかになった段階で、手助けをできるよう、準備をしておく。
・選択肢3
外部で得られる情報により、できる範囲の協力を続ける。

 の3つでした。

そして、絶対に住人同士で争わないようにすべきだと伝えました。
しかし、Sさんは、それまでの理事会のやり方を許すことができませんでした。自分で調査し、正確で詳細な資料を作成し、理事会に質問を出しました。返事はありましたが、Sさんには、はぐらかすような内容だと感じられるものでした。Sさんは、再び、資料を作り直し、理事会に質問をしますが、結果は同じでした。
その後、半年以上、理事会に改善を求めましたが、自分たちの責任問題になることを避けようと考えたらしく、かえって、状況を悪化させるような返事が増えていきました。

その間も、私は、上記に近い内容を何度か繰り返してお伝えしましたが、Sさんが助言を受け入れることはありませんでした。さらに数ヶ月を経て、Sさんも成果の出ない活動に疲れ始めました。そして、私の提案を実行するかどうか、迷っているような雰囲気が出始めました。 

【得られた結果】
ちょうどそのころ、管理規約委員会の募集があり、Sさんが応募しました。理事会側は、不安を持ちましたが、断る理由がないため、Sさんの参加が決まりました。
Sさんは、自らが正しい手順と方法を実行し、結果を出すため、改正すべき条文を調べ、委員会の議事録を毎回作成しました。

ある程度、検討が進むと、説明会を開き、出てきた意見を委員会で再検討しました。再検討の後、2回目の説明会を開き、相当数の合意を得られたことを確認しました。
最終的には、理事会に出席し、改正内容やこれまでの手順や方法について説明し、総会議案の原案も作成しました。

そして、総会では、混乱なく、スムーズに管理規約改正の承認を得られました。この活動によって、Sさんは、手順を踏むことと正しい方法の効果を実証しました。
同時に、Sさんが協力者であることを理事会は理解しました。
その後、理事会は、正しい方法を理解し、手順を踏みながら、運営するようになり、改善が進みました。 

【反省点】
最終的には、最善に近い結果を得られたが、Sさんの労力的、あるいは、精神的な負担は大きく、長期に渡ってしまった。できれば、最終的な結果をもう少し早く得られるようにしたかった。自分の説明、提案の方法を工夫する必要があると感じた。


 25戸、築22年の管理組合(自主管理)の事例          

【概要と助言内容】
通常総会の議案書に不正確な会計報告の数字が並び、議案の決議をしないことがあるなど、自主管理の期間が長かったことの悪影響が出ていました。
途中入居者(以下、Kさん)が、強い不安を持ち、理事長になって改革に乗り出しました。
管理規約改正、会計ルールの変更、各種業者の解約、排水管の更新工事、管理人室のリニューアルなどが続けて提案されました。
ところが、突然の変更に古い住人たちは戸惑い、強く反発しました。

それでも、Kさんは、改革を進めようと全力を尽くしました。多くの資料を集め、最善策を見つけ続けました。そして、最重要課題の管理規約改正に向け、全般的な見直しをKさんが済ませた段階で、私に相談がありました。したがって、当初は、管理規約改正のチェックのみの相談でした。そして、様子を知るうち、管理全般の問題がより深刻であることがわかり、依頼内容が拡大されました。 

それぞれの話を詳しく聞いてみると、Kさんの出す結論は、きちんと検証したものであり、妥当だと思いました。
しかし、進め方には、反発を招きやすい点が含まれていました。
ほとんど自分で調べ、結論を出してから、「これが最善です。」という連絡をして決定しようとするのです。

「理事長が勝手にやっている」と区分所有者が感じてしまうパターンだと思いました。

そして、自分が最善だと強く主張することは、他の区分所有者には、自分たちの間違いを指摘されたり、否定されたりしているという印象につながります。

 そこで、

管理の基本を理解し、その方法を区分所有者の皆さんに知らせる。
複数の選択肢を用意し、区分所有者の皆さんに選んでもらうようにする。
検討中の内容を広報誌で、繰り返し、わかりやすく伝える。
大きな変更や提案の場合は、説明会を開き、直接、皆さんの意見を確認する。

などの提案をしました。 

Kさんは、納得できない様子でしたが、他に有力な対策もないので、その方法を取り入れることにしました。 

具体的には、

工事業者選定の際には、複数の業者を呼び、みんなの意見で業者を決めました。
管理規約改正では、説明会を開き、相当数の理解を得てから、議案化しました。
広報誌を発行し、理事会の内容を議事録よりもわかりやすい表現で伝えました。

などです。

しかし、どれほど丁寧に説明しても、「あの人は勝手にやる。」と思われているため、正しく理解してもらえない場面がありました。区分所有者にひどいことを言われ、Kさんがショックを受けることもありました。

それでも、Kさんは、手順を尽くし、可能な限り、皆さんの意見を尊重しながら、改善を続けました。Kさんが迷っている時は、積極的に私の見解を伝え、方向性を示しました。

その結果、少しずつ周囲の様子が変わり始めました。

【得られた結果】
そして、1年後の総会では、雰囲気が大きく変わっていました。Kさんの提案や説明に、おかしな反論をする人はいなくなりました。また、他の出席者から、「今の状態は、とても良い。」「今のやり方なら、安心していられる。」「Kさんは、本当に良くやってくれている。」などの言葉が続きました。 

そして、とうとう、協力者が現れました。

その方は、1年間、理事の経験を積み、仕事を覚えられれば、翌年、理事長を引き受けても良い、と言ってくれました。小規模ですから、3、4名で交代できれば、スムーズな運営が実現するでしょう。そして、今の調子なら、希望が叶う日も近いでしょう。 

【反省点】
このケースでは、理事長がとても率直で、謙虚な方だったため、うまく進んだが、自分の導き方には、工夫が足りず、自由な雰囲気が不足していた。「複数の選択肢を用意する」という方法を自分自身も実行すべきだったと感じている。 

まとめ                       

管理組合の運営においては、素人集団で運営するため、必ずミスが生じる。それどころか、間違いだらけで運営している、と考えた方が良いとさえ感じる。

各種の関係法令、管理規約を完全に順守することは不可能である。なぜなら、区分所有法、マンション管理適正化法、消防法、建築基準法など、理解すべき法令が多過ぎるからである。また、途中、管理規約を一部変更すると、他の部分との整合性を失うことがよくある。

理論上は、慎重にやればできることだが、現実には、時間も人も不足し、協力体制もない中での運営であるから、ほぼ不可能である。
したがって、過去の理事会を責めることには、あまり意味がなく、むしろ、マイナスのパワーを生じさせることになってしまう。そうであるなら、各自が知っていること、やれることなどを申告し、不足部分を少しでも減らしていくことが有効になるのではないか、と考えられる。

そして、そのための仕組みを個別の事情に合わせて構築していくことが重要になってくる。 人間は病気から逃れられない。そして、マンションは、トラブルから逃れられない。だから、トラブルをまっすぐ見つめ、行動を積み重ねることに集中したい。

多くの区分所有者がそのように考えられるようになった時、ほとんどのトラブルをトラブルだとは感じなくなっているはずだ。  


マンション管理士 
藤城 純一

神奈川県横浜市金沢区在住

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junf@r3.dion.ne.jp